読了2010-003 チーム・バチスタの栄光
2010年 01月 03日
著者:海堂 尊
(上)ISBN978-4-7966-6161-4 宝島社文庫599 \476+税
(下)ISBN978-4-7966-6163-8 宝島社文庫600 \476+税
2007年11月26日第1刷、2008年1月10日第4刷発行版
2006年2月宝島社刊行本の文庫化
さすが「このミス」大賞!☆☆☆☆
大好きな医療モノ。著者は現役の勤務医。
しかも、外れのない「このミス」大賞作品。
ということで、たいへん面白く読めました。
2006年の「このミス大賞」なので、
噂の・・・、というにはずいぶん年月が流れてしまいましたが、
私にとってはこれが初の海堂作品ですし、
おまけにこれが海堂氏のデビュー作というのですから、
楽しみが一つ増えたお得感を味わっています。
この作品、上下巻とはいうものの、上下あわせても
京極夏彦の『鉄鼠』の半分にも満たない分量で、
医療分野の専門的なことも非常に解りやすく描写されているため
ミステリー好きな方なら、夕方から深夜にかけて一気に読み終えることと思います。
以下、ネタバレを嫌う方は読むのをお控えください。
舞台は国立大学の独立行政法人化の嵐がひとしきり吹き荒れて、
「それなり」の構造改革が粛々と進められているかに見える、
東城大学医学部付属病院。
世間的には医療過誤問題をめぐって医療の透明性を求める機運が高まり、
国立大学付属病院などをひとつのモデルケースとして
リスクマネージメント委員会などと命名された内部組織が稼動し始めた頃。
そのような審査機関は内部組織にとどまらず、第三者機関の必要性なども叫ばれ、
同時に、長くくすぶる、日本における臓器移植問題も再燃しかけていた、
誰もが、なんとなく「ああ、あの頃ね。」と頷く、数年前が設定されている。
小説内での表記では、
バブル絶頂のイケイケガンガンが持て囃された時代から、
つまりは、「ジュリアナのお立ち台」時代から、およそ17年経過した頃
ということ。
大学病院の構造改革とは言っても、そこはそれ、
大学病院;白亜の巨塔に未練タップリの、権力志向の強い方々が
まだまだ大勢いる中で、
タヌキを想像させる風貌と、つかみ所のない「おとぼけ発言」ながらも
深く広い人脈を用いるなど、なかなかの政治手腕を示す高階病院長から、
ある「特命」を受けてしまうのが、通称「愚痴外来」で
のんびり不定愁訴患者を相手にしていた医者:田口という主人公。
病院内の権力闘争とは無縁な田口が拝命したその特命とは、
この病院の外科の、安っぽい言葉で言うと「セールスポイント」であり、
世間からはパーフェクトと賞賛されるスタッフチームによる
通称バチスタ式と呼ばれる特殊な術式の心臓手術における、
相次ぐ不審な「術死」の内部調査。
パーフェクトであるはずのチーム・バチスタにおける連続した術死は
果たして医療過誤か、あるいは偶然か、はたまた事件性が潜んでいるのか?
田口医師にとってはそれでなくとも鬱陶しい、権力志向の強い面々を相手の院内調査に
ややこしいことに、強烈なキャラクターを持ち合わせる厚生省役人の
白鳥(この名前はキャラとは正反対で、作者のお茶目度が現れている)
が準主役で絡み、論理的という表現とは裏腹なドタバタ調査が
面白おかしく、しかし緊張感タップリに進められ---
やがて、全容が明らかになってゆく。
医者の正義、医者に期待されること、期待される側のその重圧感、
そして日本の医療システムが抱える本質的な「デタラメさ」など、
単に面白い医療ミステリーものという範疇を超えて、迫るものがあるとしたら
この作者が現役の医者で、彼もまた悩み、人格が壊れそうになるハードワークの中
常に解決への模索を続けているからだろうと、生意気ながらそう思える。
(上)ISBN978-4-7966-6161-4 宝島社文庫599 \476+税
(下)ISBN978-4-7966-6163-8 宝島社文庫600 \476+税
2007年11月26日第1刷、2008年1月10日第4刷発行版
2006年2月宝島社刊行本の文庫化
さすが「このミス」大賞!☆☆☆☆
大好きな医療モノ。著者は現役の勤務医。
しかも、外れのない「このミス」大賞作品。
ということで、たいへん面白く読めました。
2006年の「このミス大賞」なので、
噂の・・・、というにはずいぶん年月が流れてしまいましたが、
私にとってはこれが初の海堂作品ですし、
おまけにこれが海堂氏のデビュー作というのですから、
楽しみが一つ増えたお得感を味わっています。
この作品、上下巻とはいうものの、上下あわせても
京極夏彦の『鉄鼠』の半分にも満たない分量で、
医療分野の専門的なことも非常に解りやすく描写されているため
ミステリー好きな方なら、夕方から深夜にかけて一気に読み終えることと思います。
以下、ネタバレを嫌う方は読むのをお控えください。
舞台は国立大学の独立行政法人化の嵐がひとしきり吹き荒れて、
「それなり」の構造改革が粛々と進められているかに見える、
東城大学医学部付属病院。
世間的には医療過誤問題をめぐって医療の透明性を求める機運が高まり、
国立大学付属病院などをひとつのモデルケースとして
リスクマネージメント委員会などと命名された内部組織が稼動し始めた頃。
そのような審査機関は内部組織にとどまらず、第三者機関の必要性なども叫ばれ、
同時に、長くくすぶる、日本における臓器移植問題も再燃しかけていた、
誰もが、なんとなく「ああ、あの頃ね。」と頷く、数年前が設定されている。
小説内での表記では、
バブル絶頂のイケイケガンガンが持て囃された時代から、
つまりは、「ジュリアナのお立ち台」時代から、およそ17年経過した頃
ということ。
大学病院の構造改革とは言っても、そこはそれ、
大学病院;白亜の巨塔に未練タップリの、権力志向の強い方々が
まだまだ大勢いる中で、
タヌキを想像させる風貌と、つかみ所のない「おとぼけ発言」ながらも
深く広い人脈を用いるなど、なかなかの政治手腕を示す高階病院長から、
ある「特命」を受けてしまうのが、通称「愚痴外来」で
のんびり不定愁訴患者を相手にしていた医者:田口という主人公。
病院内の権力闘争とは無縁な田口が拝命したその特命とは、
この病院の外科の、安っぽい言葉で言うと「セールスポイント」であり、
世間からはパーフェクトと賞賛されるスタッフチームによる
通称バチスタ式と呼ばれる特殊な術式の心臓手術における、
相次ぐ不審な「術死」の内部調査。
パーフェクトであるはずのチーム・バチスタにおける連続した術死は
果たして医療過誤か、あるいは偶然か、はたまた事件性が潜んでいるのか?
田口医師にとってはそれでなくとも鬱陶しい、権力志向の強い面々を相手の院内調査に
ややこしいことに、強烈なキャラクターを持ち合わせる厚生省役人の
白鳥(この名前はキャラとは正反対で、作者のお茶目度が現れている)
が準主役で絡み、論理的という表現とは裏腹なドタバタ調査が
面白おかしく、しかし緊張感タップリに進められ---
やがて、全容が明らかになってゆく。
医者の正義、医者に期待されること、期待される側のその重圧感、
そして日本の医療システムが抱える本質的な「デタラメさ」など、
単に面白い医療ミステリーものという範疇を超えて、迫るものがあるとしたら
この作者が現役の医者で、彼もまた悩み、人格が壊れそうになるハードワークの中
常に解決への模索を続けているからだろうと、生意気ながらそう思える。
by akane-kmj
| 2010-01-03 22:00
| 読了:ミステリー/探偵/刑事